JP-DRPとは
JP-DRP制定の経緯
インターネットの飛躍的な発展・普及に伴い、 ドメイン名と商標を巡る紛争が国際的な問題になってきました。 この問題に対応するため、1999年10月、 ICANNにおいて統一ドメイン名紛争処理方針(以下、UDRP)が策定されました。 日本では、こうしたドメイン名紛争への対策は求められていたものの、 JPドメイン名において「一組織一ドメイン名」「ドメイン名の移転禁止」 という原則を採用してきたこともあり、 裁判例が多く見られるほど顕著化はしていませんでした。 しかし一方で、「一組織一ドメイン名」「ドメイン名の移転禁止」 の原則の緩和・撤廃を求める声がユーザーの間から出てきました。 このようなユーザーの声に応えて移転自由化や一組織が複数のドメイン名を登録できるようにするためには、 ドメイン名紛争の処理体制が必要であり、その整備が急務となりました。
そこで、JPNICでは、1999年12月に「ドメイン名の紛争解決ポリシーに関するタスクフォース(DRP-TF)」を結成し、ICANN UDRP をモデルとして、JPドメイン名の紛争処理に関する規約である「JPドメイン名紛争処理方針」(処理方針)、およびその処理手続きについて定めた「JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則」(手続規則)の策定に向けて検討を開始しました。DRP-TFで行われた議論は第一次答申案としてまとめられ、JPNIC運営委員会に提出されるとともに、一般に公開され、パブリックコメントの募集が行われました。一般からの意見等を受けて、DRP-TF では更に議論を行い、その結果は最終答申案としてまとめられ、JPNIC運営委員会に提出されました。そして、理事会の承認を経て、2000年7月にJPNICは、処理方針および手続規則を公開し、同年10月より実施することとなりました。
JP-DRPの構造
JP-DRPは、国際的な動きと歩調を合わせた形をとるという考えから、その判断基準や紛争処理手続きの特徴に関し ICANN UDRP に準じたものになっています。
紛争処理に関する規則
JP-DRPは、二つの文書から成り、それぞれ次のような位置付けになっています。
(1) JPドメイン名紛争処理方針
処理方針は、株式会社日本レジストリサービス(以下、JPRS)にドメイン名登録をした登録者が従う「属性型(組織種別型)・地域型 JPドメイン名登録等に関する規則」「汎用 JP ドメイン名登録等に関する規則」以下総称して、登録規則)から参照されることにより、登録規則と一体となります。つまり、登録者は、JPRSにJPドメイン名を登録したことにより、第三者から申立があった場合には、紛争処理機関の行なう紛争処理手続きに参加し、裁定結果に従わなければならないことになります。処理方針は、ドメイン名登録者と商標権者などの第三者との間のドメイン名紛争の処理に関する規約を定めたものです。
(2) JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則
手続規則は、紛争処理手続きを行なう際の規則を定めたものです。JPNICの認定した紛争処理機関は、この手続規則に基づいて紛争処理を行ないます。
JP-DRPの対象となる紛争
(1) JP-DRPの特徴
ドメイン名と商標を巡る紛争は、次のような分類ができます。
(a) 悪意のドメイン名登録者 vs. 商標権者
著名な商標や企業名と同一のドメイン名を登録して、商標等の正当な保有者に高額で売りつけるようなケース等が該当します。こうした行為は、サイバースクワッティングと呼ばれています。
(b) ドメイン名登録者 vs. 悪意の商標権者
サイバースクワッティングとは逆に、商標権等の権利を盾にJP-DRPを悪用して、正当な権利を有するドメイン名登録者からドメイン名を奪い取ろうとするケースです。こうした行為は、リバースドメインネームハイジャッキングと呼ばれています。
(c) 商標権者(ドメイン名登録者) vs. 商標権者
ドメイン名登録者と商標権者の両者ともに不正の目的がなく、そのドメイン名を登録する正当な権利を有するようなケースです。
JP-DRP の最も大きな特徴として、UDRPと同様にミニマル・アプローチというものが挙げられます。これは、上記のように分類された紛争の形態のうち、(c) のような正当な権利者間の紛争は対象とせず、(a)のように「ドメイン名の不正の目的による登録・使用」のみを対象とするものです。なお、申立を行なった結果、(b)のようにJP-DRPの悪用と判断された場合、裁定書にその旨が示されることになっています。
(2) JP-DRP 申立のための要件
JP-DRP の申立に際し、申立人は次の3項目のすべてを申立書において主張しなければいけません。
(a) 申立の対象となっているドメイン名が、申立人の有する商標等と同一または混同を引き起こすほど類似していること
(b) 登録者が、そのドメイン名登録について権利または正当な理由がないこと
(c) 登録者のドメイン名が不正の目的で登録または使用されていること
また、どのような行為が、上記(c)の「ドメイン名の不正の目的による登録・使用」に該当するかは、処理方針に次のように規定されています。なお、これらは例示であるため、他の場合を排除するものではありません。
(a) 実費金額を越える対価で転売することを目的として登録しているとき
(b) 商標権者によるドメイン名の使用を妨害するために登録し、そのような妨害行為が複数回行われているとき
(c) 競業者の事業を混乱させることを目的に、登録しているとき
(d) ユーザーの誤認混同をねらって、第三者の商標をドメイン名として登録・使用しているとき
一方、こうした申立に対して、登録者側は以下の内容を答弁書において主張することで、「ドメイン名の不正の目的による登録・使用」にあたらないことを証明することができます。なお、これらも例示であるため、他の場合を排除するものではありません。
(a) 紛争についての通知を受ける以前から、不正な目的を有することなく、当該ドメイン名またはそれに対応する名称を使用しているとき
(b) 商標登録をしているか否かにかかわらず、当該ドメイン名の名称で一般に認識されているとき
(c) 当該ドメイン名の使用が、ユーザーの誤認に乗じて利得を得る目的でなされていないとき、または申立人の商標の価値を毀損せしめるような目的ではない非商業的または公正な使用であるとき
認定紛争処理機関
JP-DRPの紛争処理手続きは、手続規則に基づいてJPNICの認定した紛争処理機関が行ないます。2000年8月、JPNICは、工業所有権仲裁センター(日本弁護士連合会(日弁連)と日本弁理士会とが共同運営する団体。2001年4月より、組織名を日本知的財産仲裁センターに変更)との間で、JPドメイン名に係わる紛争処理業務を行なうことについて、協定書の締結を行ない、同年10月より同センターが第1号の認定紛争処理機関としてJPドメイン名に関する紛争処理業務を開始しました。なお、紛争処理機関は、紛争処理業務を行う際の細則である補則や手数料に関する規定である手数料規則を定めて手続きを行っています。
パネルによる審理
JP-DRPに基づく審理・裁定は、紛争処理機関によって指名されたパネリストで構成されるパネルにより行われます。パネリスト候補者の一覧は紛争処理機関のウェブサイトに公表されています。パネルを構成するパネリストの人数は、一名または三名で、その数は 両当事者によって決定されます。具体的には、両当事者がともに一名構成のパネルを希望した場合には一名構成のパネルとなり、いずれかの当事者が三名構成のパネルを希望した場合には三名構成のパネルとなります。三名構成のパネルとなった場合、裁定は多数決により決定されます。
救済方法
JP-DRPにおける救済は、ドメイン名登録の移転および取消に限定されています。損害賠償請求は認められていません。これは、損害賠償請求を認めると、その審理および判断に時間と労力が必要となり、簡易・迅速といったJP-DRPの目指す目標にそぐわなくなってしまうからです。認定紛争処理機関で出された移転または取消の裁定結果は、JPRSへ通知され、そこで裁定結果の実施が行われます。
裁判との関係
当事者は、JP-DRPの手続き開始前、係属中または終結後のいずれの段階においても、ドメイン名の登録に関して裁判所へ提訴することができます。裁判所への提訴が、JP-DRPの手続き開始前である場合には、当事者は申立書および答弁書にその旨を示し、JP-DRPの係属中に行われた場合には、紛争処理機関等へその旨を通知しなければなりません。そして、これらの場合には、パネルはその裁量により、手続きの続行または停止もしくは終了を決定します。
また、JP-DRP終結後、被申立人(登録者)が裁定に不服(ドメイン名の取消・移転という裁定に不服)で、裁定結果通知後の10日間の間に裁判所へ出訴した場合には、この間に登録者から出訴した旨の文書の正本の提出があれば、裁定結果の実施は見送られることになります。なお、裁定後の出訴における「合意裁判管轄」については、東京地方裁判所またはドメイン名登録者の住所における管轄裁判所となっています。
紛争処理手続き
JP-DRPに基づく紛争処理手続きは、認定紛争処理機関が行います。紛争処理手続きの全体的な流れはこちらをご覧下さい。
手続きの特徴
裁判や仲裁とは異なる新たな紛争処理手段として策定されたJP-DRPの手続きに関する特徴として、次のようなものが挙げられます。
(a) 簡易
原則として、審理は当事者からの提出書類のみに基づいて行なわれます。
(b) 迅速
申立から最大でも55日(紛争処理機関が定める営業日ベース)以内に裁定結果が出されます。
(c) 低費用
例えば、日本知的財産仲裁センターでは、1件の申立について1名パネルによる審理の場合、手数料は18万円となっています。
(d) 非拘束
仲裁のように仲裁判断に拘束されるのではなく、裁定結果に不服の場合には裁判所へ出訴をすることができます。
申立書の提出
申立人は、申立に際し申立書および関係書類を紛争処理機関へ提出します。申立書には、申立の根拠や求める救済の種類、指名パネリスト候補者の氏名等を記載する必要があります。申立は、ローカルプレゼンス(日本に住所を有する)がない者も行うことができます。ただし、その場合でも、手続きは原則すべて日本語で行わなければいけません。
答弁書の提出
紛争処理機関より申立書の送付を受けた登録者は、ドメイン名登録が不正の目的で行われたものではないこと等を主張した答弁書を、紛争処理機関に提出します。答弁書の提出に係る手続きも原則全て日本語で行わなければなりません。
パネリストの選出
パネリストの数は一名または三名となっており、両当事者によって決定されます。パネリストが一名の場合は、紛争処理機関自らが維持管理しているパネリスト候補者名簿から一名を選出します。パネリストが三名の場合は、申立人と登録者の双方が、パネリスト三名のうちの各一名を指名するための候補者三名を選出し、紛争処理機関が両当事者の選出した候補者リストの中から各一名のパネリストを指名します。さらに、残り三番目のパネリストについては、紛争処理機関が両当事者に対して候補者五名を提示し、両当事者の意向を踏まえて一名を指名するという形になっています。
裁定結果
パネルによる審理の結果、移転、取消、または登録維持の裁定が下されます。この裁定結果は、JPRSへ通知され、JRPSにより裁定結果の実施が行われます。
ただし、裁定結果が移転または取消である場合、裁定通知から10日間の間は、JPRSによる裁定結果の実施は保留され、この期間内に登録者から裁判所への出訴に関する連絡がなければ裁定結果を実施し、その旨の連絡があれば裁定結実施を見送ります。また、移転裁定を受けた申立人が、ローカルプレゼンスを有しないなど、ドメイン名の登録資格がない場合には、移転登録は行うがネームサーバ設定はできない、という対応がとられます。
UDRPとの主な違い
JP-DRPはUDRPをモデルとして策定されましたが、一部の事項についてはUDRPの規定をそのまま採用するのではなく、日本の状況を考慮に入れてローカライズされています。
(1)申立の根拠である「商標」
UDRPでは、申立の根拠は「商標(trademark or service mark)」となっていますが、有名な人名等についてもこれに含めるものとして取り扱われています。一方、日本で申立の根拠を「商標」という表記にした場合、それは日本の商標法における「商標」に限定されるところとなり、有名な人名等はこれに含まれないという解釈になります。有名な人名等はサイバースクワッティングの対象となる可能性が十分にあることを考慮に入れ、JP-DRPでは、申立の根拠を「商標その他表示」としました。これにより、日本の商標法における「商標」よりも若干緩やかな解釈が可能となり、有名な人名や営業表示等も対象にできるようにしてあります。
(2)悪意/不正の目的の判断
UDRPでは、申立の条件として、ドメイン名の登録時点「および」使用時点の両方において不正の目的があると認められることが必要です。これに対してJP-DRPでは、ドメイン名の登録時点「または」使用時点のいずれかに不正の目的があれば、申立の条件として認められる形になっています。
(3)申立書・答弁書の送付方法
UDRPでは、申立書の送付は、申立人が紛争処理機関に対して行うとともに、登録者に対しても直接行うことになっています。また、答弁書についても、登録者から紛争処理機関へ送付されるとともに、直接申立人に対して行うことになっています。これに対して、JP-DRPでは、申立書・答弁書ともに紛争処理機関に対してのみ送付を行えばよく、直接相手方に送付するという仕組みにはなっていません。